大腸
      大腸

大腸の管の内側表面は粘膜でできており、この粘膜の最も浅い層の一部がイボのように隆起してできたものを大腸ポリープといいます。多くは隆起しますが、平坦なものやキノコのように茎を持ったものなど形状は様々です。構造や組織により、腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられ、専門的にはさらに細かく分類されています。腫瘍性ポリープは、良性の大腸腺腫と悪性の大腸がんがあり、非腫瘍性ポリープは、過形成性ポリープ、炎症性ポリープ、過誤腫性ポリープに分類されます。非腫瘍性ポリープは加齢や炎症によるもので、大きいものを除いては特に治療を必要としませんが、腫瘍性ポリープは良性であっても大腸がんになる可能性があるため注意が必要です。
大腸がんは、最初からがんとして発生するパターンと、良性の腫瘍性ポリープ(大腸腺腫)が悪性化してがんになるパターンがあります。多くは後者によるもので、サイズが大きくなるほどがん化率が高まると考えられています。そのため発がんリスクのある大腸腺腫を良性の時点で早めに切除することが大腸がんの予防につながります。
大腸ポリープができる原因は、主に遺伝子の異常と考えられています。また、大腸がんの発生リスクを高める最大の危険因子は、年齢(50歳以上)および家族歴(家族に大腸がんに罹った人がいる)です。赤身肉や高カロリーな食事、肥満、過量の飲酒、喫煙、保存・加工肉の摂り過ぎなども指摘されていますが、こうした要因が特定の遺伝子に変化を起こすことでポリープを発症し、がんになると考えられています。
大腸がんの家族歴がある場合、そうでない人に比べて2~3倍大腸がんの罹患率が高くなるともいわれています。親兄弟などの血縁者に大腸ポリープや大腸がんを患った人がいる方や40歳を過ぎた方には、定期的な大腸内視鏡検査が推奨されています。
また、家族性腺腫性ポリポーシスという遺伝性のポリープもあります。無数のポリープが大腸にできる病気で、幼いころからポリープができ始め、年齢が上がるに連れてがん化する確率が高くなります。治療せずに放置すると、60歳ごろには、ほぼ100%大腸がんになるといわれています。
大腸ポリープが小さい場合や平坦な場合には、自覚症状を伴うことはほとんどありません。大腸ポリープができやすい場所は、直腸とS状結腸で、この部位は硬い便が擦れる場所であるため、ある程度大きくなると、便潜血検査陽性で発見されたり、さらに増大すると腹痛、便通異常、出血、粘液便などを伴ったりします。まれにポリープが大腸の出口付近をふさいでしまい、腸閉塞を起こしたり、ポリープ自体が肛門から飛び出てしまったりすることもあります。こうした症状が認められる場合、進行してがん化している可能性も高いため、速やかに治療を受ける必要があります。
大腸ポリープが発見された場合、放置してよい「非腫瘍性」なのか、あるいはがんを含む「腺腫性」なのかを確認します。大腸内視鏡検査では、病変の大きさや形だけでなく、表面の微細構造、腺管開口部などを観察することで病変の深さや治療の必要性を判定できます。この判定には、青い色素(インジコカルミンなど)を病変に散布し、内視鏡で観察する「色素内視鏡検査」という方法が用いられます。また、粘膜の表面構造がわかりやすくなる特殊な光を当て、病変の画像を拡大して観察する方法が用いられることもあります。治療が必要な病変は、このような内視鏡観察である程度診断はできますが、原則的には病変を採取して、組織を顕微鏡で確認する病理組織検査によって確定診断が行われます。
内視鏡治療の適応となるポリープは、一般的には「径6ミリ以上の良性のポリープ」と「リンパ節転移の可能性がほとんどなく内視鏡を用いて一括で切除できるがん」です。ただし、径5ミリ以下の良性ポリープでも、平坦あるいはへこんだ形のもの、がんとの区別が難しいものは適応となります。
がんやポリープを切除する内視鏡の術式にはいくつかの種類があります。代表的なものは「ポリペクトミー」、「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」、「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」といわれるもので、これらは病変の形や大きさに応じて使い分けられます。
ポリペクトミー
キノコのように茎があるタイプのポリープに用いられます。茎の部分にスネアという金属性の輪をかけて締め付け、そこに高周波電流を流して切除します。10mm未満で茎のない良性のポリープについては高周波電流を使わずに専用の処置具でそのまま切除するコールドポリペクトミーを行うことがあります。コールドポリペクトミーには2つの方法があり、専用の処置具でポリープをつまんで切除する方法と、スネアでそのまま締めて切除する方法があります。いずれの方法も高周波を使用した場合と比べ出血や穿孔(臓器に穴が開くこと)のリスクが低いというメリットがあります。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
平坦な状態で発生しているタイプのポリープに用いられます。粘膜の下に生理食塩水などの薬液を注入してポリープ全体を持ち上げ、そこにスネアをかけて切除します。10mm以上の大きさのポリープや10mm未満であっても悪性を疑われる場合などはスネアに通電して焼いて切除する方が適していると言われています。通電によって広い範囲を切除できますが、熱凝固によって腸管の深い層まで影響が及びやすく術後も注意が必要となります。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
大きな病変や薬液で病変が持ち上がらないときなどに用いられます。粘膜の下に生理食塩水などの薬液を注入し、ポリープのできている粘膜を持ち上げたうえで専用の電気メスで周辺の粘膜を切開し、病変を少しずつ剥離して切除します。こうした内視鏡手術で、ほとんどのケースでポリープを切除できますが、進行の度合いや患者さんの既往歴などによっては、開腹手術になることもあります。
良性の腫瘍性ポリープである大腸腺腫は、治療せずに放置すると80%の確率で大腸がんに移行するといわれています。できてから数日や数週間で大腸がんになるわけではなく、数年かけてゆっくり育ち、やがてがんとなります。したがって、大腸ポリープを大腸がんになる前に定期的な大腸内視鏡検査で切除することが、最も有効な大腸がんの予防法といえます。健康診断や年齢、気になる症状を機に、定期的に大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。
大腸がんは、大腸の内側に発生する悪性腫瘍で、日本人に多く見られるがんのひとつです。
大腸は大きく「結腸(盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸)」と「直腸」に分けられ、日本人ではとくにS状結腸と直腸にがんが発生しやすいことが知られています。
大腸がんの発生は、生活習慣と関わりがあるとされています。喫煙、飲酒、肥満、高身長により大腸がんが発生する危険性が高まります。女性では、加工肉や赤肉の摂取により大腸がんが発生する危険性が高くなる可能性があるといわれています。そのほか、炎症性腸疾患があると、大腸がんが発生する危険性が高くなるとされています。また、大腸がんの発生には、家族の病歴との関わりもあるとされています。特に家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の家系では、近親者に大腸がんの発生が多くみられます。
早期の大腸がんは無症状のことがほとんどです。しかし、がんが進行していくと腸の内腔が狭くなったり、出血したりすることで、次のような症状が現れるようになります。まず、便通の異常が見られます。下痢や便秘が交互に現れたり、排便後のスッキリ感が得られなかったりするようになります。また、がんの表面から出血が起こると、血便や貧血が現れることがあります。
過敏性腸症候群(IBS)とは、一般の腸の検査(大腸造影検査、内視鏡、便検査など)をしてみても、炎症や潰瘍、内分泌異常などが認められないにも関わらず、慢性的に腹部の膨満感や腹痛を起こしたり、下痢や便秘などの便通異常を来たしたりする疾患です。腸の内臓神経が何らかの原因で過敏になることによって、引き起こされると考えられており、20~40歳代によくみられ、年齢を重ねるとともに減少する傾向があります。
IBSのはっきりとした原因はわかっていませんが、いくつかの要因が病態に関与すると推測されています。
ストレスによる自律神経の乱れ
小腸や大腸は、食べ物を消化・吸収するだけでなく、便を体外に排泄する機能もあります。不要となった腸内の内容物を肛門方向に移動して排泄するには、腸の収縮運動と腸の変化を感じとる知覚機能が必要で、これらは脳と腸を連絡する自律神経系によって制御されています。何らかのストレスによって不安状態になると、この自律神経のバランスが乱れて収縮運動が過剰になったり、痙攣状態になったりし、同時に痛みが感じやすくなる知覚過敏状態にもなります。IBSの患者さんはこの状態が強いため、痛みを感じやすく、腹痛を起こしやすいと考えられています。
感染性腸炎による腸内細菌の乱れ
細菌やウイルスによる感染性腸炎にかかった場合、回復後にIBSを発症しやすいことが明らかになっています。感染によって腸に炎症が起き、腸の粘膜が弱くなるだけではなく、腸にいる腸内細菌にも変化が加わり、収縮運動と知覚機能が過敏になるためです。その刺激が脳へ伝わり、苦痛や不安感が増すこともわかってきています。
IBSの主な症状は腹痛や腹部の不快感、便秘や下痢などの便通異常で、ストレスによって悪化します。腹痛の部位はへその周囲や左の側腹部など人によって異なり、痛みの性状は、急に起こる強い痛みや持続性の鈍痛で、便意を伴うことが多く、排便後に一時的に軽快することがあります。IBSは排便回数と便の形状から「便秘型」「下痢型」「混合型」にわけられており、このタイプによって症状が異なります
潰瘍性⼤腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、それによって粘血便や下痢、腹痛などの症状があらわれる病気です。大腸の中でも、出口に近い直腸から奥に連続した部位の粘膜や粘膜下層に、「びらん」や「潰瘍」という、粘膜の傷やただれが生じます。
さまざまな要因が関与して潰瘍性大腸炎を発症すると考えられていますが、原因については現在のところはっきりしていませんが遺伝的な要因や環境要因、腸内細菌の関与など、さまざまな要素が複雑にからみあって発症に至ると考えられています。
腹痛、下痢、そして血便です。特に下痢は一日に何度も起こることがあり、粘液や血液を伴うこともあります。これらの症状が日常生活に支障を来すこともしばしばです。
クローン病は、消化管のどの部位にも炎症が生じる可能性がある慢性の炎症性腸疾患(IBD)の一種です。特に小腸から大腸にかけて炎症が起こることが多く、腸の粘膜だけでなく深部にまで炎症が及ぶのが大きな特徴です。また、潰瘍性大腸炎と異なり、炎症は消化管内のさまざまな場所に「飛び石状」に現れる非連続性を持ちます。
発症は10代後半から30代前半の若年層に多くみられ、腹痛や下痢、体重減少、微熱などの症状が長期間にわたり繰り返されます。原因ははっきりしていませんが、遺伝的素因、免疫異常、腸内環境(腸内細菌のバランス)などが関与していると考えられています。
クローン病の症状は、病変の場所や炎症の程度によって異なります。最もよくみられるのは、腹痛と下痢で、多くの患者さんがこれらの症状で受診します。さらに、血便、微熱、体重の減少、倦怠感、貧血、食欲不振なども現れることがあります。
また、肛門に潰瘍や痔瘻(じろう)、膿瘍などの病変が見られることも多く、これが潰瘍性大腸炎との大きな違いのひとつです。
クローン病は再燃(症状が悪化する時期)と寛解(症状が落ち着く時期)を繰り返す慢性疾患であり、時間をかけて病変が拡大・悪化していくこともあるため、長期的な経過観察と治療が必要です。
クローン病の治療は、大きく分けて「内科的治療」と「外科的治療」に分かれます。ほとんどの患者さんは内科的治療で症状の改善と維持が可能です。
栄養療法
炎症を抑えるために、消化器に負担をかけない低脂肪・低残渣(繊維)食を取り入れたり、必要に応じて経腸栄養剤を使用したりします。食事による病状悪化を避けることが重要で、栄養士の指導のもと、個別に調整された食事がすすめられます。
薬物療法
外科的治療
薬物療法で改善が見られない場合や、腸閉塞・瘻孔・穿孔といった合併症がある場合には、手術が検討されます。手術では、病変部の切除や、腸管の拡張、痔瘻の処置などが行われます。
虚血性大腸炎は、何らかの原因で突然、または一過性の血流障害が起きることで大腸に炎症が生じ、血便や腹痛が起こる疾患です。
虚血性腸疾患の中では最も頻度が高く、日々の診療でも虚血性大腸炎の患者さんが多くいらっしゃいます。典型例としては「便秘になりがちな高齢の女性」であり、一般的には60歳以上の方に多いですが、若い方にも増えている病気です。
大腸に血液を送る役割を担う動脈の血流が阻害され、大腸粘膜に血液が不足することで粘膜傷害を起こします。虚血性大腸炎は、血管の原因と腸管の原因がそれぞれ複雑に絡んで発症すると考えられています。
血管の原因としては、動脈硬化があったり血液が固まりやすい方が挙げられ、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や動脈硬化を引き起こす基礎疾患をもつ方に発症しやすいとされています。
また、腸管の原因として最も頻度が高いのは便秘です。便秘により強くいきんだ際に腹圧がかかり、大腸粘膜への血流が低下してしまいます。
突然の強い腹痛に続いて下痢が起こり、徐々に血便がみられるようになるのが典型的です。身体の左側に位置する大腸の部位(下行結腸、S状結腸)に好発するため、お腹の左側が痛むことが多いです。吐き気や冷や汗を伴うこともあります。
多くの場合は、腸管を安静にする食事指導などの保存的治療で軽快します。症状が強い場合は、腸を休ませるために絶食としますが、その間は水分・栄養補給のための点滴が必要となるので入院治療が一般的です。症状が落ち着けば、少量のお粥から食事を開始し、食事形態を徐々に通常に戻していきます。問題がなければ、1週間から2週間程度で退院できます。
便潜血とは、便に血が混ざっていないか調べる検査です。
食道や胃、小腸・大腸といった消化管で、がんやポリープ腫瘍や炎症・潰瘍を生じた場合に、便にわずかに血が混じることがあります。
大腸がんを早期に発見するための検査には、簡便な便潜血検査と、詳しい検査ができる大腸内視鏡検査があります。
便潜血検査は、あくまでも便の中に血液が混入していないかを調べる検査です。
top